3.市街地の増設

(2)釧路郡内の『字』(あざ)


村町名・字名

 釧路郡役所の市街地増設上申の結果、釧路郡内には、米町、真砂町のほかに、浦見、幣舞、洲崎の三町が新たな市街地区画(字)として認可され、その他の区域が釧路村として桂恋村、および鳥取村とともに部落区画とされたわけである。

 のちに釧路町(市)域となる大字桂恋村は、大区、小区の時代からすでに桂恋村と呼稱されていた区画であり、地形的に見ても今でもおよそのの見当はつけられる区域である。いっぽう釧路村は、桂恋と接する春採区域から、現標茶町域の阿歴内(あれきない)および釧路町域の鳥通(とりとうし)付近まで、また鳥取村と接する現在の橋北一帯から庶路村境の別途前(べっとまえ=現新富士地区=)までを包摂する、広大な、しかも境界線のあいまいな地域(字)の総稱である。

 ここで、少々煩雑にはなるが、この当時の町とか村の呼稱について述べてみよう。

 現在私たちが村とか町とか 呼稱する場合、大別するとおよそ次のような意味を持っている。

 一、国の行政区画  二、地方(公共)団体(自治体)として、公法人の人格を持つ団体名  三、土地、住所、戸籍の所在を表示するための 呼稱

 むずかしい理論はともかく、「釧路市米町」という場合の「米町」は、行政の区画としての字(あざ)と、土地の所在や住所の表示を示すだけの 呼稱で、「米町」という公法人ではない。いっぽう、「釧路郡釧路町」とか「阿寒郡鶴居村」という場合の「釧路町」や「鶴居村」には、行政の区画や土地、住所の所在を表示するほかに、公法人(地方団体)の 呼稱として意味がある。

 北海道では、明治三十二年に「北海道区制」、同三十三年に「北海道一級町村制」が施行されて、公法人である区(札幌、函館、小樽)や町村(釧路町など十六町村)が誕生するが、それ以前の町村名は、行政の区画と、土地の 呼稱にしか過ぎない。明治二年に国、郡が設定されたといっても、人間が入植し、土地を分割して所有するようになるまでは、土地所有権の及ぶ範囲が明確でなくても、だれも痛痒(つうよう)を感じないわけで、「釧路郡ベトマイ原野」や「釧路郡釧路村」だけで、一筆限り何町歩、何十万坪にも及ぶ土地の表示もできたし、行政の区画もそれでことたりた。

 しかし、人間の居住がふえて土地の分割が行われると、所有権を確定するために、その所在箇所や地目(土地の種別)、地積を表示する必要が起こってくる。この場合、その土地の地番には、すでに設定されている行政の区画の 名稱に準じた表示が必要であった。さらに、村の範囲が広大であれば、これをいくつかの字に分割し、その上で地番を付けて分筆していくことになる。このとき、人家が比較的密集している区域あるいは市街地を予定して区画する地域には「町」とか「通り」の名を付け、その他は部落として「村」または村名なしの小字を使用するのが普通であった。

 したがって、明治二十一年から、明治三十三年に北海道一級町村制が施行されて「釧路郡釧路町」となるまでの期間、釧路郡には、米町、真砂町、浦見町、幣舞町、洲崎町の五町と、釧路村、桂恋村、鳥取村の三村が、行政の区画や土地、住所、戸籍の 呼稱として存在し、春採、知人、茂尻矢、西幣舞、頓化、別途前などが釧路村の内の大字とされていた。釧路に町制が施行されたあと、これらの町村も、釧路町の大字となっていった。たとえば、「釧路郡真砂町」が「釧路郡釧路町大字真砂町○○番地」となったり、「釧路郡釧路町大字釧路村字茂尻矢」と変わるだけである。ただこの場合、戸籍の表示など、大字釧路村の呼稱が省略されて字茂尻矢とか西幣舞が釧路町の大字とか小字にされ、「釧路郡釧路町大字西幣舞」と表示されている場合がある。これは、本来戸籍の表示が住民の届出に基づくものであり、届け出る者が正確に記載し、受理する戸籍吏がそれを入念に点検して統一するかしなければ、不統一、不正確はまぬかれないことになる。釧路の古い戸籍簿をみてもその呼稱(表示)は統一されていない。たとえば、「釧路郡釧路町大字米町」というように正確な記載があるかと思えば、「釧路郡釧路町字苧足糸××番地」などと、すでに明治五年に釧路村の区画に編入され、明治二十一年に新設の洲崎町となった土地地番が、戸籍としては町制施行後も「釧路町字苧足糸」(本来は洲崎町)として届け出されたり、受理されて生きてきたわけである。

町村(公法人) 町、村、大字、字 (行政上の区画等)
明治2 釧路郡    
明治5 釧路郡   釧路村、桂恋村(昆布森、跡永賀村、仙鳳趾村) ※カッコ内は以下省略
明治8 釧路郡   釧路村、桂恋村、米町
明治15 釧路郡   釧路村、桂恋村、米町、真砂町
明治17 釧路郡   釧路村、桂恋村、米町、真砂町、鳥取村
明治21 釧路郡   釧路村、桂恋村、米町、真砂町、鳥取村、幣舞町、洲崎町、浦見町、茂尻矢、西幣舞、頓化、別途前、春採
明治33 釧路郡 釧路町 釧路村、桂恋村、米町、真砂町、鳥取村、幣舞町、洲崎町、浦見町、茂尻矢、西幣舞、頓化、別途前、春採
明治36 釧路郡 釧路町 釧路村、桂恋村、米町、真砂町、鳥取村、幣舞町、洲崎町、浦見町、茂尻矢、西幣舞、頓化、別途前、春採、入舟町
 ※なお、この外に戸籍の表示などに苧足糸などが使われ、文字も、漢字、片仮名など統一されていない。


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